音遊人

シンガーソングライターのやなせななさんが連載されているYAMAHA会員誌「音遊人(みゅーじん)2018年 冬号」のエッセイ「やなせなな ひだまりの唄」にて私、ミムラシンゴの事やアルバムについてご紹介下さいました。
柔らかく、語るような文章で、やなせさんご自身の感想や想いなどを書き綴って下さり、とても感動しました。

以下、原文を書き写していますので是非読んで頂けると嬉しいです。
宜しくお願い致します。

– ひだまりの唄 58 –
文・やなせなな
Heart Sky Door
一昨年(2016)に発売した、やなせなな通算5枚目のアルバム『夜が明けるよ』でサウンドプロデューサーを務めて下さった作・編曲家のミムラシンゴさんが『Heart Sky Door(空のすきまに扉はひらく)』を、今年の9月12日に電子音楽レーベルの名門「PROGRESSIVE FOrM」よりリリースされました。
ミムラさんは神戸市のご出身で、音楽専門学校在学中よりベーシストとして数多くの音楽家と共演してきました。卒業後はバンド活動を経て、作・編曲家、サウンドクリエーターとしての活動を開始。演劇、広告映像作品への楽曲提供や、イベントBGMなど多数制作される一方で、著作権フリーの音楽ダウンロードサイト「Akari Records」を立ち上げています。バラエティ豊かな楽曲はもちろん、サイトもすべてご自身で一から制作されたものです。
ミムラさんとの出会いは、わたしが6年ぶりにフルアルバムを作るにあたりアレンジャーを探していた時に、知人に紹介されたことが最初でした。
初めての打ち合わせに現れたミムラさんは、とても背が高くて、ほんの一瞬怖そうに見えたのですが(笑)、話すとやわらかい関西弁が印象的で、ひとつひとつの事柄にじっくり真摯に向き合ってくださるやさしいお人柄でした。正確さと我慢強さが要求されるレコーディングやミックス・マスタリングの現場でも、いつも感情を乱すことなく、緻密に作品を練り上げてゆく姿勢は、まさに職人肌。ミムラさんのおかげで、素晴らしいアルバムを作ることができました。
今回は満を持して、ご自身の集大成ともいえる、初のオリジナルアルバムを発表されたわけです。
アルバムを制作にあたり、ミムラさんは「本当の癒やしとは何か」ということを幾度となく考え、誰しもが心の奥底に持つ、もっとも純粋無垢で神聖な魂を、音楽で表現したいと思ったそうです。聴き手のひとりひとりが穏やかな暮らしを送ることが出来ますように、という祈りを込めて作られた楽曲は、時にせつなく、時にあたたかく、時になつかしく。遥か空の上や、深い海の中、静かな森の中などを自由に漂うことができるような、言葉では表現できない荘厳な世界を生み出していました。
ピアノ、ベース、ギター、カリンバ、弦楽器といった多彩な楽器に加えて、声やノイズ、自然の音などを組み合わせた楽曲には、ひとつひとつの音にミムラさんの思いがしっかりと込められています。ただ美しい音楽というにはもったいない、たとえるなら、かみさまや仏さまのような大いなるものを感じられる曲にも思えました。ミムラさん自身、「”お祈り”や”お墓参り”のあとのような、心穏やかでスーッと前向きになれる、そんな感覚を作りたかった」とのこと。まさに!そういう聴き心地です!
きっとこの「美しい」一枚を作るにあたり、コツコツと地道な、根気のいる作業を、何日にもわたって続けられたに違いありません。疲れて心が折れてしまいそうになったこともあったかもしれません。その苦労を想像すると、かつていっしょに音楽を作った仲間のひとりとしては、胸にぐっと込み上げてくるものがありました。
実際の言葉よりも、音で雄弁に語ることができ、言葉を超えるからこそ表現できる世界があるのだと教えられた、ミムラさん渾身の一枚。
わたしがここでごちゃごちゃ解説するのを読んでいただくよりも、まずは一度、体の力を抜いて、ひとりでゆっくりと聴くことをおすすめします。気づくと涙がはらはらと流れてくるかもしれませんよ。